最愛の貴方に花束を

15/19
前へ
/359ページ
次へ
「ありがとう。 僕だって、皆のことが大好きだよ」 一人を抱き締めれば、次は自分、と言わんばかりに子供達はリクヤに詰め寄る。 女性は、愛情をせがまれるその姿を、ほんの少しだけ羨ましく思ってしまった。 「・・・どうしたら、リクヤさんの様になれるでしょうか」 子供達の頭を愛おしそうに撫でながら、女性は言う。 リクヤは、そんな女性を不思議そうに見つめた。 「お仕事だってきっと大変なのに、お休みにこうして皆と遊んでくれて、きっと疲れているのにいつも笑顔で優しくて・・・」 私はそんな風になれないなあ、と、ぼやく彼女に、リクヤは笑いかける。 「昔、そうしてもらったことがあるんですよ」 「昔・・・?」 「はい。 その人はいつだって笑顔で優しくて、傍にいてくれて。 本当は辛いのに我慢強いからそれを誰にも見せなくて・・・。 僕が、こうされたかったって思いを、全部受け止めてくれました。 きっとその人がいなければ、今の僕は無かったと思います」 「その人、今は?」 「今は・・・、会えない所にいます」 「え、あ・・・」 「いいんですよ。 僕はその人に、数え切れないほど大切なものを貰いましたから。 もう、ゆっくり休ませてあげたいんです」 「リクヤさん・・・」 いけない部分に触れてしまったような表情をする女性を見て、リクヤは困った様に笑う。 「・・・もっとこうしてあげたかった、なんて考えることはあるんですけどね。 今はまだ・・・それも叶わないので。 だからせめて、教えて貰った優しさを、誰かに伝えていこうと思ったんです」 かつて自分が、その優しさに救われたように。 「此処の皆は大丈夫だと思います。 貴方みたいな人が傍に居てくれているんですから。 いつも充分過ぎるほど頑張っていると、僕は思っていましたよ」 余り、褒められたり認められることがなかったのだろうか。 別れ際、嬉しそうにはにかむ女性の瞳には、涙が浮かんでいたように見えた。
/359ページ

最初のコメントを投稿しよう!

256人が本棚に入れています
本棚に追加