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「ありがとう。
僕だって、皆のことが大好きだよ」
一人を抱き締めれば、次は自分、と言わんばかりに子供達はリクヤに詰め寄る。
女性は、愛情をせがまれるその姿を、ほんの少しだけ羨ましく思ってしまった。
「・・・どうしたら、リクヤさんの様になれるでしょうか」
子供達の頭を愛おしそうに撫でながら、女性は言う。
リクヤは、そんな女性を不思議そうに見つめた。
「お仕事だってきっと大変なのに、お休みにこうして皆と遊んでくれて、きっと疲れているのにいつも笑顔で優しくて・・・」
私はそんな風になれないなあ、と、ぼやく彼女に、リクヤは笑いかける。
「昔、そうしてもらったことがあるんですよ」
「昔・・・?」
「はい。
その人はいつだって笑顔で優しくて、傍にいてくれて。
本当は辛いのに我慢強いからそれを誰にも見せなくて・・・。
僕が、こうされたかったって思いを、全部受け止めてくれました。
きっとその人がいなければ、今の僕は無かったと思います」
「その人、今は?」
「今は・・・、会えない所にいます」
「え、あ・・・」
「いいんですよ。
僕はその人に、数え切れないほど大切なものを貰いましたから。
もう、ゆっくり休ませてあげたいんです」
「リクヤさん・・・」
いけない部分に触れてしまったような表情をする女性を見て、リクヤは困った様に笑う。
「・・・もっとこうしてあげたかった、なんて考えることはあるんですけどね。
今はまだ・・・それも叶わないので。
だからせめて、教えて貰った優しさを、誰かに伝えていこうと思ったんです」
かつて自分が、その優しさに救われたように。
「此処の皆は大丈夫だと思います。
貴方みたいな人が傍に居てくれているんですから。
いつも充分過ぎるほど頑張っていると、僕は思っていましたよ」
余り、褒められたり認められることがなかったのだろうか。
別れ際、嬉しそうにはにかむ女性の瞳には、涙が浮かんでいたように見えた。
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