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平日の昼間、ということもあってか、電車の中はほぼ貸切状態だった。
誰もいない車両の中に、ガタンガタンと揺らめく音が響き渡る。
・・・ん。
電車の揺れの一つに、リクヤの意識は呼び戻された。
重い瞼に残る微睡みに、ああ、寝ていたのかな、と理解する。
電車内にアナウンスが響いたのは、それとほぼ同時だった。
ぼんやりとした思考ではあるが、次の駅名を聞き逃さないように耳を傾ける。
・・・あと、二つかな。
長いこと座っていた筈だし、ほんの少しながら眠りもした。
にも関わらずまだ到着に余裕があるということは、やはり自分が行こうとしている場所はとても遠いのだと、リクヤは改めて思った。
振り向き、座席の後ろの窓、その向こうに見える景色を眺める。
都会から随分離れたであろうこの地域には、無機質な住宅やマンションの羅列は無く、一面の殆どが田んぼと緑で埋め尽くされていた。
窓を開けなくても伝わってくる空気の鮮度を感じながら、リクヤは再び姿勢を正すように座り直し、残り僅かな時間を大人しく待っつ。
再び、車両の中とリクヤの頭の中に、電車の揺れる音だけが響き渡り始めた。
・・・あ。
電車の揺れに定位置がずれていたのか、隣に置いておいた私物が、今にも落ちそうになっていた。
たまたま視界に入って良かった・・・。
そんなことを思いながら、今度はしっかりそれを腰掛けている脚の上に抱いた。
触れる度にそれは、パリパリという包装紙の音を響かせる。
アナウンスが、響く。
後、一つだと思いながら、リクヤはそれ・・・花束を、愛しそうに撫でた。
白い包装紙に包まれた花達は、まだどれも真新しい。
そして、白系統をメインに、淡い色達を散りばめるように包んでもらった花束は、柔らかく、優しい印象を与えてくれた。
アナウンスが、目的の駅名を告げる。
リクヤは、花束を落とさないようにしっかり抱き抱えた。
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