最愛の貴方に花束を

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抱えている花達を、水面にそっと浮かせる。 花は直ぐ波に攫われ、水面の揺れに少しずつばらけていく。 そうしてゆっくりゆっくりと、色とりどりに散りながらリクヤから遠ざかっていってしまう。 それを見届け、願い、祈る。 この気持ちが、皆に届くようにと。 全ての始まりは、きっと絶望からだった。 悲しい、苦しい、どん底からだった。 でも、それがなければ、こんな優しい奇跡には出会えなかった。 皆に、シオンくんに会えなかった。 奇跡がなければ優しい思い出はなく。 悲しい思い出を受け入れなければ、前には進めなかった。 全てがなければ、今の自分にはなれなかった。 生まれてきて、良かった。 生きるのを、諦めなくて、良かった。 皆に会えて、良かった。 人を、好きになれて良かった。 僕が、僕でいれて本当に良かった。 ありがとう。 全ての奇跡に、想いに。 ありがとう。 さあ。 旅はまだ途中だ。 「イド、行こっか」 花の行く末を見守っていたイドが、リクヤの声に振り向く。 「また、いつか来ようよ」 リクヤは微笑みながらそう言うと、イドも嬉しそうに笑った。 また、いつか。 二人は並び、海に背を向ける。 花の舞う海が、潮風に波音を乗せて、前に進んでいく二人を見送った。 - おしまい -
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