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街の中を歩き出す。
足元は急ではないが坂道になっているようなので、取り敢えず下ってみることにした。
「誰もいない…」
人の気配がない、どういうことだろう。
建物はこんなにあるのに…。
静かな空間に響く、自分の水を蹴る音。
しかしそれ以外の生活音が、全くなかった。
不気味とは思わないけれど、本当に不思議だ。
ーー足を止め、辺りを見渡す。
街は入り組んだ構造じゃない、それどころか。
今自分が歩いてる、両側に白の家が建ち敷き詰められたこの一本の坂道しか、”道”と呼べるものはないようだった。
分かれ道も、路地裏というものも、何もなかった。
……街中で迷う心配は、ないのかもしれない。
強いて言うなら、建物の外見に差がなく、さっきの家に戻るときに注意が必要なくらいだ。
「何か、小さな目印でも覚えとかないと…」
そう思い、もう一度自分が出て来た家を確認しようと振り向いた瞬間、
「ーーー!」
誰かが少年を横切り、下り坂を走り抜けて行った。
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