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慌ててその方向を振り返ったが、もう人の影も水の音も聞こえなかった。
そんなはずない…。
長いこの坂を下り切るまでには、後ろ姿が見えるはず…。
「なんなの…? いったい、何だったの?」
不思議な現象に、心臓の鼓動が速まる。
ーーその不安に陥っている少年の感情に、追撃をかけるように。
「……?」
長い下り坂の終着点、その先から。
低い呻き声が聞こえてきた。
「なに…? この声……」
苦しそうだけど、助けを求める声でもない。
なによりそれは、人の声ではなかった。
間違いなく…。
気持ち悪い音に、冷や汗が顔を伝う。
おおおぉぉん…。
おおおぉぉおん……。
呻き続ける声に、全身の鳥肌が立つ。
身体の中を引っ掻き回されているようだ。
「怖い…っ」
恐怖に、身体が竦む。
「嫌…っ」
だけど正体不明の呻き声に恐怖し続けたまま独り立ち竦んでいる状況は、少年にとってはもっと嫌なことだった。
「…行って、みよう……」
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