彼女

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彼女と最初にした会話を僕は良く覚えている。 あれは高校一年生になって間もない頃だ。 確か担任の先生に頼まれて、教科書を教室に運ぶ係りに、たまたま出席番号が近かった僕と浅倉が選ばれた。 当時、彼女はすでに明るくて可愛いと男子の間で話題になっていた。 一方、当時……というか今でもだが僕はどこにでもいる至って普通の、イケメンでもブサイクでもない男子だった ので、可愛いと評判の彼女との共同作業は、それはもう心踊った。 思春期の男の子らしく、モジモジと話しかけられずにいると彼女のほうから話しかけてくれた。 いやはや、本当に情けない。 「佐々木くん、……だったよね?」 「……違うね」 全然違った。 一ミリもカスっていない。 「えっ。 ご、ごめんね。 私、人の名前覚えるの苦手で……。えっと……、私、浅倉って言います。 あなたは 何というお名前ですか?」 浅倉は困ったように、アハハと笑って、そう尋ねてきた。 「あっ、いや全然いんだけど……。俺は井浦 純」 愛想なく僕はそう答える。 「よしっ。 純くん、だね。 浅倉莉奈、インプット完了しました!」 浅倉は左手をおでこに当てて、「敬礼」のポーズをする。そしてまたもや最上の笑顔。こんな笑顔を僕に向けてもったいないと思ってしまったくらいだ。 と、その時「敬礼」をしてしまったので、浅倉の持つ荷物がバランスを崩した。そのまま重力に逆らわず、教科書はバサバサと地上に落下した。 「……やっちまったぜ! 純くん、先に行っていいよ! すぐに追い付くから」 そんなこと言われても、ここで本当に先に行ってしまたら人間失格だろう。 少なからず、僕のせいでもあるんだし。 僕は浅倉と一緒に屈んで教科書を拾う。 すると、浅倉は少し驚いた顔をした。 僕はその顔に驚いて尋ねる。 「……何?」 「えっ! あ、いやー……。意外だったもので。純くんって他人に興味なさそうだからさ。そういう人間味溢れる行動に驚かされました」 ……笑顔で中々失礼な事を言う。 「……別に他人に興味ないとか、そういうのじゃないよ。ただコミュニケーションが苦手なだけ」 「うわっ! 今の発言、すごく人間っぽい」 「……人間だもん」 「アハハ。冗談だよ。怒らないでー。……ありがとね。純くん。優しいね」 その率直なお礼に免疫のない僕はモゴモゴと口ごもる。 「えっ、あ、いや、……どう、いたしまして」
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