彼女

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僕は昔からそうだ。 物心ついた頃から、他人とのコミュニケーションを嫌った。 世界を広げることを、嫌った。 そうやって狭い世界で生きてきたから、こういう時にどんな言葉を発すればいいのか分からない。 結果、黙る。なにも発さない。 「純くんってさー」 そんな僕とは対照的に彼女はよくしゃべった。 「何型?」 何気ない会話だった。 しかし、それが嬉しかった。 「Bだけど」 そういうと浅倉は、えっ! と驚いた。 「ビィかぁ。浅倉的にはABかと思った」 「えーびぃ……?」 そんなことを言われたのは浅倉が初めてだ。 大体の人間は当ててくる。 当てられても、全然嬉しくないが……。 「そー! AB! なんか純くんって他の人と違うからさ。 オーラっていうのかな? なんか、こう、感じるんだよ。ビビッと!」 「なに、それ」 ハハッ、と僕はいつの間にか笑っていた。 浅倉は人を楽しませることが得意らしい。 職員室から教室までの距離が、やけに惜しく感じた。 後十キロくらい延びてくんねーかなぁとアホなことを思っているうちに教室にたどり着いた。 教室の中に入れば、そこはもう別世界。 僕が彼女に話しかけるなど到底できやしなかった。 けれど、浅倉はそれからちょくちょく僕に話しかけるようになった。 「さっきの授業さー」とか「お弁当忘れた!」とか。 はたから見れば、そういう、なんてことのない、普通の会話だけれど。 僕はそれが嬉しかった。 僕が特別ではないのだろうと分かってはいたけれど。 僕が彼女に恋するまで、そう時間はかからなかった。 いや、あるいは、初めから恋をしていたのかもしれない。
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