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携帯電話を潰さんばかりに握り締める。怒りは募るばかりだ。
「糞……」
握り締めている携帯電話を、想い切り床に叩き付けてバラバラにしてやりたい衝動に駆られたが、結局実行には到らなかった。
べつに最新機種で値段が張ったから、などという下らない理由のせいではない。
機械に疎い私に代わって、咲夜が選んでくれたものだからだ。
漆黒の光沢を放つボディに立派な桜の樹の待受は、さながら夜桜の様である。
私の名前に因んで咲夜が設定してくれた。
少々古風な感じがしないでもないが、とても気に入っている。それを破壊するという所業を犯せる筈も無い。
…………。
時計の針の音だけが、設定に従って機械的に響く。
携帯の代わりに、ローマ数字を使用するアンティークな時計を物言わぬ残骸にしてやった。
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