それは、ある満月の夜の事でした。

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「非常に危険な状態です。もし、どちらかを選ばなければならないとしたら、母体と子供のどちらを優先しますか」 突然、残酷な選択が獅桔に告げられる。 一刻を争う事態なのだと、医師の緊迫したその雰囲気から読み取れた。 「そんな・・・! 選べる訳ないじゃないですか!!」 半ば詰め寄るような形でそう答えた獅桔に、医師は少し表情を曇らせる。 「勿論、私たちも最善は尽くします。しかし、双子の出産は通常よりリスクが高いのも事実。これより緊急で帝王切開に切り替えますが、母子ともに心拍が弱っています。両方が持ちこたえられるかはわかりません」 さぁ・・と血の気が引く感覚が獅桔を襲った。 万が一、どちらかを優先しなければならないとしたら。 「・・わかりました。もし、その時は」 獅桔の答えに、医師は一瞬固まった様子を見せたが、小さく、しかし力強く頷くとすぐに手術室へと戻って行った。 倒れこむようにベンチに腰を下ろし、獅桔は祈るように両手を握りしめる。 長い、長い夜だった。  
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