第零話 『改変の時、魔女の存在』

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「待って」  しかし、戦いの火蓋は切って落とされることはなかった。  今まで何をしいていたのだろう少女が青年の前に手を出し、静止を促した。  ゼダは青年を視界に収めながらも辺りを見回すと子供とその母親がこの場から消えていたことに気付く。この少女がふたりを安全な場所に移したのだろうと考え、身震いをした。  この空間はゼダが構築した模倣結界術だ。  指定した範囲の空間内にある物質を解析し、それを別次元上に再現することで無人の街を作り上げている。  この結界、いくつもの要素が組み合わさることによって成しえた大魔術だ。  指定した座標内にある物質の位置を数値化。  模倣する物質を構成する構造物の解析。  解析したデータを座標データと共に別次元へ出力する演算能力。  模倣世界と現実世界との行き来を行うための経路の座標設定と生成。  模倣世界をその場に現界させるだけの魔力供給など、挙げれば限が無いがどれか一つの要素でも欠けてしまえばこの結界は成り立たない。  ここまで大規模な術式ならば複数人の術者と彼らを支えるバックアップがあってようやく成り立つものだが、この男は難なくそれをひとりで行っている。  数値化された物質の位置データはゼダの頭の中にある。ゼダはこのデータを元に、生きている者の居場所を把握していた。  物というのは基本的に皆不動だ。この模倣世界には生物は存在せず、直立不動を貫く高層ビルディングが立ち並ぶのみ。  そんな動きのない街で数値の変化があれば、それ即ち生物であるということ。  座標値の変動。それがどこに行っても逃れられない追いかけっこの正体。  しかし、今は目の前のふたり以外の座標値の変動を感知することが出来ない。  青年と話をしていた時間は五分にも満たない。だが、現にその短時間で少女は親子ふたりを結界範囲外に移動させている。  先程の生人形の攻撃を防いだ時も彼女と青年の位置は掴めなかった。気が付いた時には目の前にいて、狩りの邪魔をされていた。  ゼダは武者震いを起し、喚起した。そしてただ一言呟く。  ――面白い、と。
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