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甘く美しく、恋人を誘うかのように言葉を紡ぎ、少女がまたクスリと笑ってみせた途端、それまで撫でるように吹いていた風がけたたましくガラス窓を叩き、荒波のような暴力的な魔力がこの空間を占拠した。
今三人が立っている場所は高層ビルの立ち並ぶ中心部から少し外れた交差点だ。当然ビル風のような突風など吹いてくるような場所ではない。
風向きを辿れば少女の方角を差す。
そこでゼダは見た。少女を中心に風が渦を巻く光景。それは風によって作られた竜が姫騎士を守ろうと牙を剥くような。
「貴方が襲った親子ふたりは最後まで悲鳴を上げなかったわ」
吹いてくる風の中央を割るように、彼女はゆっくりと歩き出す。
足音を高らかに、微笑し――
「じゃあ、貴方はどんな風に鳴くのかしら……」
身を宙へと舞わせ――
「Gute Nacht.《おやすみなさい》」
詠唱を唱えると同時に、少女を取り巻く風向きが変わる。
宙に浮かぶ球体が風を紫電の魔力と共にその身に纏い、膨張させていた。
少女を囲むように展開していた球体は速度を持ち、少女を中心として高速で回転する。
点が線となり、回ることで円となる。これで陣は完成した。
陣の中央に佇む少女の身体が鈍く光る。全身を幾何学の模様が埋め尽くす。
彼女に必要なものは術式を補完するための陣のみ。残りの情報は全て彼女の身体に描かれている。
銃口のように向けられた少女の指先、高濃度の魔力が収束し、固定される。
色は白。何の付加要素もない純粋な魔力の塊。つまり、少女が使うのは――
「Ich prasentiere einen ewigen Schlaf.《もう二度と目覚めることのない夜へ》」
特大の、レーザーじみた反則級の魔力弾。
縦横無尽に拡大するそれはゼダの視界全てを覆い、世界を白一色へと塗り替える。
「まさか……キミが、」
相対する者が誰なのか、わかった時点で既に事は終わっている。
執行部隊が誇る第一級の刑執行者。彼女が戦線へと向かえば、後に残るのものは何も無い。音すら残さず、全てを奪い去るその力を讃え、世界は彼女をこう呼ぶ――”Silent Witch《沈黙の魔女》”と。
「Ein guter Traum《良い夢を》」
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