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術者からの魔力供給が無くなった結界はその姿を維持することが出来ずに崩壊した。
元の空間へと戻ってきた彼らが立っているのは街の中心だ。
しかし、煌々と光を放つ街並みには人の姿は無い。既に人払いの結界が張ってあるようだった。
青年が先程までゼダが立っていた方を向くが、そこにはやはり誰もいない。
あるのは一筋の炎。ゴウゴウと燃えるそれは力強く、どんなに小さくなろうとも全てを燃やしきるまでは決して消えることはない。
しかし炎が燃やしているそれは金属だった。溶け出した外装の中からは歯車やネジにケーブルといったパーツが零れ落ちてきている。あの「ゼダ・R・コルビネン」と名乗ったモノも人形であった。
「チっ、人形師も人形か。術者本人は別の所から高みの見物、あっさりと姿を見せた理由はこれか。
――今回も骨折り損だったな」
散らばった人形の破片を踏みつけた青年は燃える炎を視界の隅に収め、やれやれと言ったように手を挙げた。
対する少女は青年に背を向けたまま、この場を照らす月を眺めていた。
「別にいいわよ、また探して仕留めればいいんだから。あ、でも人形壊しちゃったからしばらくは静かになるのかな? よかったわね、久々に休暇が取れるかもよ」
「休暇よりも金が欲しいとこだな、この前散財しちまったし」
「……可愛い女の子見つけては誘ってフラれて自棄酒なんて自堕落ループはいい加減やめにしない?」
「なんだお前、嫉妬してんのか?」
「はいはい、アンタのそのスッカラカンな頭の中一回見てやりたいわ。
――それよりね。やっぱり私、決めたわ」
少女は呟く。誰かに聞かせるものではなく、自分に言い聞かせるように彼女は言った。
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