第零話 『改変の時、魔女の存在』

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「お前の選んだ道は鬼門だぜ。いいことなんてひとっつもありゃしねぇよ。つか、悪いことしか待ってねぇ。あるのは死にたくなるような苦痛と現実。ついでに言うと死にたくても死ねない場所だ。  ――それでもお前は行くんだろ?」  青年の言葉に少女は笑いながら頷き、目の前に現れた扉を叩く。  開いた扉が発したのは黄金の光。しかし、その先にあるのは地獄そのもの。  銅を思わせる赤黒い空、土は乾きひび割れ、緑などの豊かさを思わせる物は微塵もない。  正真正銘の異界の扉。この扉を潜れば、待っているのは苦痛以外の何物でもない。  しかし、少女はこの門を潜るといった。一度言い出したら全く聞かない少女のことだ。今回も何を言っても無駄だろうと青年は溜息を吐く。お小言の一つでも吐いてやろうか。それもいいが今はもっと大事な言葉がある。お小言よりも簡単で一番気持ちが伝わる言葉。 「期待せずに気長に待っててやる。  ……行ってらっしゃい」  最後の方は小声で呟きソッポを向いた青年を見て少女は一瞬キョトンとしたが、次第に目が潤みだし、泣くまいと必死に両手で目をこする。ある程度落ち着いたころには少し目が腫れ、ちょっと野暮ったい感じになっていたのはご愛嬌だろう。  深呼吸を一息すると満面の笑みで彼女は言った。 「行ってきます」  扉が物々しい音と共に閉まり、割れ目の中へと帰っていく。  この瞬間、賽は投げられた。  世界は変わるのだ。新たな"魔女"の存在をもって……。
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