第零話 『改変の時、魔女の存在』

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 ――夜。  太陽が地平線や水平線の下にあるこの時間帯では、人の手によっては決して抗えぬ暗闇が天を支配する。  それは、ある者にとっては安らぎの時であり、ある者にとっては休息の時であり、またある者にとっては恐怖の時ともなる。  街は人と同じくして眠りにつき、それに伴い音は消え、視界は塞がる。  たとえ街に明りが灯ろうとも、全てを照らし出せるほど人間の力は万能ではない。  故に日中とは相容れぬ、別空間が自然とそこに出来上がる。  青色から黒色へと塗りつぶされた空は生物の動きを鈍化させ、束縛する。  草木も眠る丑三つ時。この時間帯は特に色が濃く、深くなる。  自ら進んで外を闊歩する者などまずいないだろう。  いたとすれば酔漢や遊び人の類か、もしくはその”筋”の者か。  どちらにせよ、碌でも無い者ばかりなのは間違いないだろう。  さて、前置きはこのくらいにして本題に入ろう。  今回はその碌でも無い者たち――丑三つ時こそを真に生きる狂人たちの話をしよう。  昼は昼。夜は夜、といった風にいくつもの自分を使い分け、一般人に紛れて暮らす彼等の騒がしくも痛快な劇をご覧に入れよう。  ……ふむ、舞台の準備が整ったようだ。  では早速だが役者諸君、物語を始めようか。  最高の悲劇を、最低なシナリオと共に皆様にお届けしよう。
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