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「はぁ、私に平穏はやって来ないのかしらねぇ」
おぉ、ゴッド! 私はただ普通の女の子として、平和に暮らしていきたいだけなのです。それなのに何故このような仕打ちを……ッ。
シスターのように両手を合わせて木漏れ日の照らす窓へと身体を向けるが、そこで私の寝ぼけ眼が捉えたのは汗ばんだ両手だった。
まさかと思ってシーツとパジャマを触ると、これまた汗でびっしょり。これは学校に行く前に洗濯機の中に放り込む必要がありそうだ。
原因は昨夜の夢だろう。今回のは特に夢見が悪かった。
夢なんて記憶に残るものは少ない。
起きる寸前まではしっかり夢を見ている感覚はあっても、目が覚めてしまうとそれがどんな夢だったのかは途端に思い出せなくなる。
夢というのは結果の印象が強い。終わりよければ全て良し、というわけではないが、結果に満足してしまうため、そこまで至った過程が薄れてしまい、内容が曖昧になる。しかし、悪夢は結果よりも内容の方がより大きなインパクトを体験者に与えるため、内容をより鮮明に記憶に残し、結果を陳腐なものへと変換する。
まぁ、いろいろ御託を並べたが、詰まる所今回私が見た夢は後者のものだ。
――真っ暗だった。ただ、ひたすらに”黒色”が世界を包み込んでいる。
そこには私だけではく、どこにいるかは解らないが他に何人かいるようで。
度々、金属音が鋭く響く。同時、音源で発生した火花で辺りがほんの一瞬だけ色が付く。
そこで私は見た。
お互い、手に持つ何かをぶつけるふたりの人間。
突き破られたアスファルト。
引き裂かれた樹木。
燃え盛る街並み。そして、地面に転がる――
「……ッ」
思い出そうとした時、私の頭がズキリと傷む。
これ以上は考えるなと脳が警告を発しているのだろうか。それならば本能の赴くままに、無かったことにしようと思う。なんだか気分も悪いし。
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