第一話 『爽やかな空、穏やかでない一日』

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 深呼吸の代わりにちょっと深めの溜息を吐く。  やはり、朝はまだ寒いせいか肺に入ってくる空気が刺々しい。冷えた酸素で満たされた我が呼吸器は、それを活力とばかりに盛大に活動を開始する。  心臓の鼓動が一層大きくなる。今取り込んだ酸素を体中へと運び、無理矢理私の意識を覚醒させる。ドクン、ドクンと脈打つ鼓動を感じながら私は「起きるの面倒くさいなぁ」と独りごちる。  そんなことをしていると待ちに待った出番だと言わんばかりに目覚まし時計が机の上で騒々しくガタガタと鳴り響いた。 「あぁー、わかったわよ……。今起きるからちょっと待ってなさい」  毎朝六時二十分にセットした目覚まし時計も私の機嫌を損ねる要因の一つだ。  もぞもぞと布団の中で蠢いた後、未練が残らぬように布団を蹴り上げて一気に身体を起こす。  目覚まし時計には仕返しとばかりに憎しみを込めてボタンを思い切り叩く。断末魔とばかりに最後に軽く、リン、と鳴くとそれ以降は静かになった。  私はそれを横目で見ながら窓の前に立ち、カーテンを開けた後、大きく伸びをする。関節がコキコキと悲鳴を上げるところをみると、疲れが溜まっているのだろうか。それとも私の寝相が悪いのだろか……。まぁ後者は考えないでおこう。とりあえず、これからは寝る前にストレッチをしておこうと思う。  フラフラと起き上がった私は机の上のメガネを取り、朝の支度をするために洗面所へと向かう。  ――余談ではあるが、私の部屋は家の二階にある。洗面所は一階にあるため階段を降りる必要がある。  しかし、さっきも言った通り私は寝起きがとても悪い。起きて不機嫌になっている上に半分寝ぼけているため、よく階段の最後の段差をすっ飛ばして降りる。自分としては最後の段差のつもりで足を運んでいるのだが、実際には二段分の高さがあり、気が付かないままストンと落ちてしまう。そうなると驚きながらも着地できる時とそうでない時があり、今日の私はかろうじて前者だった。まったく、朝から心臓に悪い体験をした。
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