第一話 『爽やかな空、穏やかでない一日』

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「行ってきまーす」  七時三分前には全ての支度が終わった私は鍵をかけたかキチンと確認した後、意気揚々と家を出る。  私の家から学校までの距離はそう遠くはない。歩いて十分もすれば校門へとたどり着くのだからむしろ近いと言えよう。  距離の近い学校。ちょっとだけど余裕ある出発。朝食は既に摂取済み。これだけ条件が揃えば、遅刻寸前でパンを咥えた私が曲がり角でぶつかった男子と口論の果てに仲良くなるなんてベタベタな恋愛ストーリーが成り立つという奇跡は起きない。  昔、そんな展開が私にも降って来ないか期待して、曲がり角の部分で待ち続けた結果誰もそこを通らなかったなんて黒歴史があるくらい私は男と縁がない。  そりゃ自分がどことなく地味な存在であるということはある程度自覚しているし、お化粧や服装といった外見に関しても無頓着な所があることも原因のひとつであることを理解してはいるのだ。  「わかっているのなら行動をすればいいじゃない!」なんて友人(真由美)に言われたこともあった。でも、さっきも言った通り私は基本面倒くさがりなのだ。やってやろうと思っても三日坊主が関の山。だから私は自分らしく気ままな日々を送ることを選び、それを良しとした今の生活を気に入っている。  慌ただしい朝を迎え、学校では友人との会話に華を咲かせる。放課後には思い思いの時間を過ごし、帰宅したらあっつーいお風呂にザバっと入った後、美味しいご飯をお腹いっぱい食べてテレビを見て笑って寝る。平凡で刺激なんてこれっぽっちもない日常。  ――でも私はそれがいい。  スリルなんて映画やドラマの中だけで結構。私は私なりの普通(幸せ)が欲しい。 「しあわせは~歩いてこない だ~から歩いてゆくんだね~ってね」  最初の歌いだししか知らない三百六十五歩のマーチ。  誰しも印象強く残るフレーズを口ずさみながら私は学校への道のりを歩いていく。
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