第一話 『爽やかな空、穏やかでない一日』

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   ◆  眠気に打ち勝った私がいたのは時計の針が二本とも頂点を差そうかという時だった。  覚えのないノートの走り書きは古代人の遺跡などにある壁画のものとそっくりで、寝ている間に古代人に身体を乗っ取られていたんだと覚醒三分前までは本気で考えていた。 「今日の授業はここまで。さっき出した課題は来週のこの時間に回収するから、ちゃんとやっておくように」  先生の話が終わると同時、昼休み突入の鐘が皆の鼓動を大きく跳ねさせる。 「じゃあ、学級委員長。号令」 「はい、起立」  委員長の号令と同じくして、中腰で片足を少し前に出し、今にも走り出しそうな体勢を作るクラスメイトたち。  既に廊下ではバタバタと走り抜ける音がいくつも聞こえている。 「礼」  先程余地もより深く腰を落とし、凄い奴はクラウチングスタートの体勢で今にも走り出しそうな勢いで待機している。  このクラスの人間は自分のためならなんでもやる馬鹿野郎ばかりだ。 「着――」  席と委員長が完全に言い終わる前にはクラスの馬鹿野郎共の実に七割近くが教室の外へと疾走を開始していた。  こんな馬鹿げたことが起きているのには理由がある。  一体いつからこんな事になったのかは知らないが、我が校には食堂と言う名の拷問部屋が存在している。  もうマズイってレベルではない。どう調理したらこんなにもマズイ飯が作れるのか問いただしたいほどマズイ。  よって新入生やお腹を空かせた金欠貧乏学生でもない限り、食堂を使用する者などいない。各自弁当を持ち寄って教室で思い思いの昼食時間を過ごしている。  では、弁当がない人間はどのようにしてお昼を過ごしているのか。  食べないなんて選択肢は無し。さっきも言ったが、育ち盛りの高校生たちは常にエネルギーを必要としている。力の源を絶つなどという自らを貶める愚行など以ての外だ。  コンビニエンスストアなんて便利なものはココから十五分以上歩いたところにある。往復で三十分かかるところなど誰が行くものか。  ならば、答えは一つだろう。
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