第一話 『爽やかな空、穏やかでない一日』

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 教室の窓の下で群がる学生たち。  己が欲望を満たさんと他人を蹴落とし、陥れ、自らをより優位な立場に持っていく血みどろの戦場。群生の先端には小さなテント。テントには「出張 タナカパン屋」と大きく書かれている。  まぁ、つまるところコレは学園物の小説やアニメなどではよくあるお昼のパン争奪戦なのだ。  皆、自分の好きなパンを巡って争っている。特にココの惣菜パンは一押しで、味ヨシ量ヨシ値段ヨシ、の三拍子が揃うという奇跡を体現してしまっている。種類が多い分、数が少ないのが難点。早い段階に行かないと手に入れるのが困難な希少種となっている。  この戦争に参加しなくては後に待つのは耐え難い空腹か、学食という名の毒か。  ならば、この争奪戦の輪の中に入るのも必然。立ちはだかる猛者共を打ち倒し、パンという名の財宝を手に入れるために彼らはココを駆けねばならない。  この泥沼化した惨状を見て戦意喪失する者はこの学校には少ない。我先にと先人たちの上を土足で通っていく肝の座った変人共ばかりだ。 「……はぁ、上から見たらこんなにもアホらしいやりとはねぇ」  それを私は教室の窓から見下ろしていた。  いつもならば先陣切ってあの巣窟に突っ込むところだが、今日のコンディションは万全とは程遠いものなので泣く泣くパンを諦めることにした。  空腹で過ごすよりかは幾分マシだろうと割り切って、私は地獄への扉を開ける決意を固める。  友の必死の抑止を振り切り、いざ死地へと赴かん。  相対するのは最凶の敵。この壁を越えねば私に”今日”はない。
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