第一話 『爽やかな空、穏やかでない一日』

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 食堂は私たちの教室がある建屋とは別館になる。  一旦外に出て、グラウンドを横切ると美術部や茶道部などが使用している別棟の建物が見えてくる。そこの一階に食堂は居を構えていた。  食堂の入り口では争奪戦の敗者たちが食券の自動販売機に列を作っていた。  涕泣する者。地団太を踏む者。頭を抱え絶望する者。その様子は三者三様だが、誰一人として笑っていないという共通点があった。  皆、下を向き、死んだ魚のような濁った瞳で自分の番が来るのを待っている。その有様は断頭台に向かう死刑囚さながらだ。    ここだけ見てたら世界の終末を思わせるなぁ、なんて感想は私の心の中に留めて置く。  券売機には二種類の食べ物しかない。AセットかBセットか。普通ならば入り口に献立表のような物があるのだろうが、ここの食堂にそんな物は存在しない。  何を作るかはその日の料理人の気分次第。当たりの日があればハズレの日もある――大概大ハズレなのだが。  この二者択一で今日の午後の全てが決定してしまうのだ。出来れば慎重に選びたいところだ。しかし、昼休みは刻一刻と終わりへと向かっている。悠長に考える時間などない。  ならば―― 「南無三ッ!!」  お金を投入して同時にボタンを押す。全てを天に任せた私のとっておき。どう転んでも、しょうがないと言い訳できるように逃げ道を作っておく。これならば精神的ダメージはある程度は軽減されるだろう。  出てきた券に目をやればそこにはBの文字。これは地獄への扉かはたまた天国への階段か。どちらにせよあの世が間近に迫っていることに変わりはないのだろう。  命を握る食券を料理人に出し、待つこと三分。  完成したモノをテーブルに並べて私は呟く。 「みんな、今日までありがとう。私――旅立ちます」  そのまま私はパクリと一口逝った。
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