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この店には入口と出口でそれぞれ専用の扉がある。入口の扉は店の西側にあり、精肉コーナーは店の東側……つまり反対方向にある。
惣菜コーナーは西側にあるのだがそこに人気はない。既に貪られたか、それとも敵も同じことを考えていたか。
まずいと心が焦る反面、口元は笑みの形を作っていた。この状況を楽しんでいるのだろうか。
精肉コーナー少し手前の位置を走る私の眼前では既に死闘が繰り広げられている。自分の感情について考える余裕など今は無い。それを投げ捨て、目の前の戦へと集中する。
争乱の中、潜るように進む私を出迎えたのは飛び交う剣撃、放たれる殺気、足元を巣喰う罠。手持ちの鞄でそれ等全てをいなし、潜り抜け、払い、私は私の理想郷へと前進する。時間に余裕などなく、足を止めれば集中業火。ならばと避ける動作は最小限に納める。進めや乙女。川の如く滑らかに、風の如く速やかに。
しかし、右へ左へ身体を揺らし最短の時間と距離で目標へと接近した私に最大の壁が立ちはだかる。
目を血走らせ、鼻息荒く佇むその女性の側には敗れていった者たちが横たわっていた。
左手には買い物袋、右手にぶら下がったカゴには既にいくつかの戦利品が並べられている。
――この人はヤバイ
そう思うやいなや、右から風がきた。
それを屈むことで避け、私は地を蹴り前進する。
風の正体は買い物袋。女性はそれを手首の返しで軌道修正し、前進する私へと縦に振り下ろす。咄嗟に鞄で身を守るが、想像よりも重い一撃に足は止まる。次に来たのは左、カゴが私の横っ腹を打撃する。
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