1人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「……ッ!」
直撃寸前に横へと跳躍したおかげで大きなダメージはないが、肋骨が軋むような音をたて、私の動きを鈍化させる。
それを好機と見たか、「にやり」なんて効果音が似合う不気味な笑顔を女性が浮かべ、次へのモーションに入る。
来たのは右から横薙ぎに打ち出された斬撃だった。首当たりの高さを断ち切るように繰り出されたそれを、先程と同様に屈んで避る。
続く攻撃が繰り出される前に、私は動く。
スライディングのように足を伸ばし、女性の足目掛けて蹴りを放つ。姿勢が不十分なため威力は無いが、別にこの蹴りは当たる必要などない。相手が私から距離を取ること。そうなれば、下がったことで私に身構える時間と余裕が出来るし、相手は相手で攻めの流れを失うことになる。
チャンスだと私は思った。
しかし、鈍い音と革靴が私に伝える固い感触が術策の失敗を告げていた。
女性の足元、ロングスカートにサンダルといういかにもな格好の横には先程まで握られていたカゴがある。こちらの狙いが読まれていたのだろう。カゴを盾として使ってきた。
舌打ちしたい気持ちを抑え、今は回避に全力を注ぐ。
既に相手は右の射出準備を終えている。相手の体勢を崩すはずがその結果、私の隙と次斬撃までの準備時間を相手に与えることになるとは、なんたる失態。
床よ砕けよと言わんばかりの勢いで己の掌を叩きつけ、その衝撃で一瞬浮き上がった私は足を体の下へと引き戻し、とにかく後ろへと跳躍した。直後、鼻先を掠るように右の斬撃が放たれ、髪の数本を持って行かれる。
――あっぶな。
あと少し回避が遅くなっていたならば、私の身体は断ち切られていただろう。
冷や汗と共に唾を飲み込み、
――とにかく、手を出そう。
突撃する。
縦に来た袋を半身になって回避し、その体勢から正面へと戻る反動を利用して横殴りに鞄を打ち付ける。しかし、やはりそれは籠によって防がれ、袋と籠が横薙ぎに私を挟み込むようにして来る。
私は身を相手側へと倒し、懐に潜るように進む。だが、袋は回避できたが籠の一撃が私の右肩を穿つ。
「……ぐッ!」
籠と私の距離がほぼ零だったせいか、ダメージはそう大きくはなかった。
殴られた衝撃で私の身体は女性から数歩離れた所まで飛ばされ、着地する。
最初のコメントを投稿しよう!