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息をつくと、応じるように頭上で音が響いた。
直上、天井の向こうを杭打つように足音が近づいてくる。
彼女は再び少年の手を取り、エスカレーターへと身を躍らせた。
下へ行くことを選び、アルミのステップを駆け下りていく。
走り降りる自分の足音。それと重なるように、上から足音が聞こえる。
だが、そこで全ては終わらない。
外だ。ビルの南面側、先程自分達が必死に駆けていた方向。
そちらにひとつの音が近づいてきた。深く長く広く響く低い音。
「……何?」
そう身構えた直後。
「――a、g、Arrrrrrrrrrrrrrrrr!」
雄叫び。獣の如き叫喚。
ビルが殴られたように横へ振動。窓ガラスはひとつ残らず粉々に砕け、床には亀裂が入る。揺れは断続的に続く。
「――ッ!?」
全身が震えて総毛が立ち上がった。足など一瞬で止まる。
咄嗟に砕け散る窓ガラスから身を盾にして少年を守る。
身体に聞こえる重音は東に通過。
揺れる建物も落ち着きを取り戻し、また元の静寂を取り戻している。
沈黙……。
気付けば音から解放されていた。
身を一度震わせ、踵をステップ。足に血を供給し、腕には子を守る力を宿し、意思は前に進むことを望む。
ココに居てはいけないと駆け出した。
息を吐き、下を見ればエスカレーターはあと数段で終わり。
急げと感情が、身体が叫ぶ。理性と言うよりそれは本能に近い。
最早エスカレーターは駆け下りるのではなく、飛び降りているに近い状態だ。
一階に到着。このままどこかに隠れるべきかと思案する。
しかし、視界から得た情報が思考を止めた。視界にわずかな闇がかぶっていたからだ。
それは上から、エスカレーターの吹き抜けからの影。
耳の中、上で響いていた足音が消えている。
――何かが
来る、と思ったときには既に身体が動いていた。
少年の頭を抱え、出口に向かって思い切り跳躍。擦り傷が出来ることもかまわず、飛び込んだ。
直後、先程まで自分が立っていた場所には人の姿をした影が轟音と共に着地をした。
その細く伸びた腕らしき部分は軽々とアスファルトの床を貫き、大きな穴を開けている。
歪んだビルとその影を尻目に二人は走った。
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