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「……間に合った。もう大丈夫だからね」
少年を抱き抱えたその人はメガネをかけブレザーの制服を着込んだ、コレと言った特徴のない地味な少女だった。
少女の優しい声を聞いた少年は一度頷くと安堵したのか静かにその意識を手放した。
「けっ、イラネェ仕事増やしやがって。そんなことやってっから必要のないモノまで背負い込む羽目になるんだ。わかったかボケナス」
その反対側、コートの男の背後からは腰に刀の鞘と思わしきものを引っ提げた荒々しい青年が少年の母親を抱えて、愚痴を言いながら立っていた。
母親を近くにあったベンチに寝かすと、懐に手を突っ込みタバコとライターを取り出して徐に吸い始める。
母親の方も少年同様、既に意識を無くしているのか横たわったまま起きてこなかった。
黒いコートの男は、乱入者ふたりを睨む。
しかし、その表情には焦りがなく、むしろ嬉々としているようだ。
「これはこれは、思っていたよりも大物がかかったようだ。海老で鯛を釣るとはこういうことを言うのかな」
男は品定めをするかのごとく、上から下まで舐めまわすように少女と青年を観察する。
男の目にはすでに親子は見えていない。
あの親子は少女と青年を誘き寄せる”餌”としては十分に役立った。
使い終わったものは捨てる。それが彼等のいつものやり方であった。
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