第零話 『改変の時、魔女の存在』

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「テメェの事は知ってるぜ。ゼダ・R・コルビネンだろ」  青年が男の名前を口にすると帽子の奥で一瞬驚いたような、意外だとでもいうような表情を浮かべ、クツクツと笑う。 「ほぉ……。私の名を知る輩はそう多くはないはずなんだがな」 「だろうな。実際にオレだってテメェのこと知ったのは一月ほど前の話だしな。蛇の道は蛇ってな、そんな奴がウチんとこにもいるんだよ」  そいつは厄介だ、心にも思っていない言葉を男――ゼダは口にし、またクツクツと笑う。 ーー何が可笑しい ゼダの態度に青年の苛立ちは高まるばかりだった。自らの気持ちを押し殺し、続く言葉を放つ。 「……で、そいつからもらった資料によると、結界系の術式が得意だそうだな。後は人間を生きたまま人形として行使する生人形遣い――まるで吸血鬼だな。死霊術師よりも悪趣味、と言うか……ただの変態だろ」 「別に共感してもらおうとは思っとらんよ。価値観はその人間によって違うからね。私はこの人形を息子とさえ思っている。君にこの価値観を強要するのは罪と言うものだ」 「へぇ。力を誇示するためにそうなった、って口じゃないな。なかなか肝が据わってんじゃないの」 「お褒めに預かり光栄至極……とでも言っておこうか。私はただコレを完成させたいだけなのだ。手を加え理想の形への一歩を踏みしめた瞬間、何とも言えぬ気持になる。おそらく、子を持つ親の気持ちというのはこういうものなんだろうね。しかし、いつかは神に召し上げなくてはならないことを考えると複雑なのだが……」  左手で額に触れ、本気で悩んでいるかのような仕草を取るゼダに対して青年は舌打ちをした。その反応を見てゼタはまたクツクツと笑う。 「んで、その子煩悩な親バカ人形遣いはこんな結界張って何を待ってたんだ?」 「君たちのような優秀な素材だよ。ありふれた素材では質が悪いからね、使い物にならないんだよ。クク、しかし君の身体は何度見てもいい。鮮度ある丈夫な肉体。体内に秘める魔力の純度は高い上に量もある。久しぶりだよ、こんなにもそそる人間に会えるなんてね。今日は人生最良の日と言っても過言ではないかもしれない」 「最良の日? ハ、笑わせんなよ三下。テメェの今日は人生で一番最低で最悪な厄日だ。明日の朝日なんて拝ませねぇ。ここで消し炭になるってのが道化なテメェにぴったりの末路さ」
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