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「久しく来ていなかったからってそんなに驚かないでくれ」
お客さんは無表情から打って変って口角が上がっている。
「誰なんですか?」
僕は一色さんに小声で尋ねた。
「山名さんはここの常連なんだ。とはいっても最近は来てくれなかったけどね」
「仕方ないだろ。仕事が忙しかったのだから」
「ああ、あれね」
一色さんは納得しているようだが、僕にはわからない。
「どんなお仕事をなされているのですか」
結局僕は本人に職業を尋ねた。
「形無いものだけを始末する殺し屋だよ」
形あるものも殺せるけどね、と山名という男は言った。
「えっと……それはいったいどういう意味ですか?」
「言葉通りの意味だよ。人から心の闇まで何でも抹殺できるということだ」
心の闇。
僕の琴線に引っ掛かる言葉だ。
「君の心にも巣食っているように見えるが。深い闇が。私が駆逐しようか?」
僕は迷った。
この男に空白を殺してもらうべきか。
いや、違う。
他人の力を借りてはいけない。
これは他人の介入を受けるべきではない。
「いえ、いいです」
「そうか、気が向いたら声をかけてくれ」
山名さんはお代をテーブルに置いて店を去った。
「あ、そうそう、コーヒー豆の備蓄が底をつきそうなんだ。エリカと赤松君で調達してくれないかな」
「わかりました。じゃあ、行くよ」
コーヒー豆代を一色さんからもらって外へ繰り出した。
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