第3話

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陽炎が揺らぎ、逃げ水が虚構の水たまりをアスファルトに映し出している。 そんな状況でも元気なのは蝉とエリカぐらいのものだ。 「ねえ、はやくはやく」 エリカは縁石の上を僕より先行して歩きながら言った。 「僕はエリカほどタフじゃないんだよ」 エリカが縁石からジャンプして降りた。 「もう、仕方ないなあ」 そう言うやいなや、エリカが僕の手を握って駈け出した。 「え、ちょっと!」 僕には何も言わず、ただ走り続ける。 エリカの足は思いのほか速く、僕は何度か足をもつれさせてこけそうになった。 そうなりながらも僕たちはコーヒー豆を売っているというお店に着いた。 しかしそのお店はどうみても一般の住居にしか見えない。 そんな家のようなお店のインターホンを押した。 「いらっしゃいませ」 扉が開いて女性が顔を覗かせた。 ウェーブのかかった薄い茶髪で、そしてたれ目で、おしとやかな印象を与える。 「一色さんから話は聞いているわ。おいしいケーキとアールグレイを用意しるから早くいらっしゃい」 「わーい、ケーキだ」 ああ、そういうことか。 エリカが急いでいる理由がわかった。 子どもっぽい。 そんなところも妹と変わらない。
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