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陽炎が揺らぎ、逃げ水が虚構の水たまりをアスファルトに映し出している。
そんな状況でも元気なのは蝉とエリカぐらいのものだ。
「ねえ、はやくはやく」
エリカは縁石の上を僕より先行して歩きながら言った。
「僕はエリカほどタフじゃないんだよ」
エリカが縁石からジャンプして降りた。
「もう、仕方ないなあ」
そう言うやいなや、エリカが僕の手を握って駈け出した。
「え、ちょっと!」
僕には何も言わず、ただ走り続ける。
エリカの足は思いのほか速く、僕は何度か足をもつれさせてこけそうになった。
そうなりながらも僕たちはコーヒー豆を売っているというお店に着いた。
しかしそのお店はどうみても一般の住居にしか見えない。
そんな家のようなお店のインターホンを押した。
「いらっしゃいませ」
扉が開いて女性が顔を覗かせた。
ウェーブのかかった薄い茶髪で、そしてたれ目で、おしとやかな印象を与える。
「一色さんから話は聞いているわ。おいしいケーキとアールグレイを用意しるから早くいらっしゃい」
「わーい、ケーキだ」
ああ、そういうことか。
エリカが急いでいる理由がわかった。
子どもっぽい。
そんなところも妹と変わらない。
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