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僕たちは帰宅後、カウンターに立ってたまに来るお客さんにコーヒー、時々軽食を提供した。
誰もお客さんがいない時、一色さんが何の前触れもなく言った。
「来週の土曜日から3人で旅行に行くよ」
あまりに唐突なので驚きの声が出なかった。
「やったー、旅行だよー、楽しみでドキドキしてきた」
エリカは一色さんの言葉を素直に受け止めて無邪気に喜んでいる。
「旅行といっても隣町の海辺にある小さな小屋のような場所に5日間行くだけだけどね」
「そんなにここを空けておいて大丈夫なんですか?」
「心配することは何もない」
「そうですか……」
なんだか釈然としないまま営業時間終了を迎えた。
夕食と入浴を済ませて自室に戻ると、ベッドに座って『オデッサファイル』を読んでいた。
僕が背負っていた大きなリュックのチャックが開いている。
「フォーサイス好きなの?」
僕は頷いた。
「あの人の本は『ジャッカルの日』しか読んだことないけど結構好き。読んでいてドキドキしちゃうの。主人公と警察の駆け引きが素晴らしかったよ」
「主人公も暗殺の腕が立つだけじゃなくて、礼儀作法が完璧な紳士で、ルックスもいいのも魅力だと僕は思うな」
エリカの頬はわずかに紅潮している。
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