第3話

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****** 寝苦しい。 この言葉が頭の中で牛のように反芻を繰り返している。 この部屋にクーラーはおろか、扇風機もない。 ただ窓が開いていて、そこから吹き込むそよ風がカーテンを揺らしているだけだ。 僕は幾度目かの寝返りをうった時、木製の扉が軋む音が聞こえた。 この部屋の扉が開かれた。 僕は部屋に入ってくる人物をはっきりと見た。 エリカだ。 月明かりに照らされながら何も言わずこちらに近づいてくる。 そしてベッドにその身を横たえた。 エリカの存在を背中にひしひしと感じる。 エリカが左腕を僕の体にまわして体をさらに密着させた。 そして耳元で憂いを帯びた儚げな声でこう囁いた。 「お兄ちゃん……」 僕の意識は仄暗い井戸の底に落ちていった。
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