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気が付くと僕はカウンターに立っていた。
今日も一色さんはいない。
それにエリカもいない。
起こしに行こうかと思ったが、やめた。
どんな顔をして彼女に会えばいいのか僕にはわからない。
昨夜のあの言葉が僕の心に木霊する。
エリカは妹と同じ声音で囁いた。
お兄ちゃん、と。
軽快な鈴の音が鳴った。
お客さんがきたようだ。
木製の椅子を引いて腰かけた。
「カフェラテとトマトレタスサンドを」
山名さんだ。
「かしこまりました」
僕は厨房でパンの耳を切り落とし、トマトとレタスを洗ってから切った。
心に巣食う空白を切り捨てるように。
注文されたものを作り終えると、それらを山名さんの前に置いた。
「ところで、気が変わったか?」
「えっ」
突然山名さんが僕に尋ねた。
「君の中にあるものを始末する件だよ。なあに、子ども相手なんだから値段は良心的だ。その点は安心しろ。ちなみにエリカは客だった」
山名の口から驚きの言葉が飛び出た。
「本当ですか!」
「嘘をつくわけないだろ。信用で商売が成り立ってるんだから」
「失礼しました」
僕は少し頭を下げた。
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