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それならばと思ってしまう自分を強く恐れた。
「いつまでエリカ<代替品>で我慢するつもりなの?」
本物はすぐそこにある。
手を伸ばせば届く場所にいる。
両手が自然と彼女へと伸びる。
彼女の柔らかそうな頬を触ろうとする。
弾力あるそれに触れた。
はずだった。
手は頬に触れることなく通り抜けてしまった。
理解した。
せざるをえなかった。
「僕の妹は既に死んでいる」
「違うわ。ここでは私たちが常識なの。お兄ちゃんが望めばわたしは生を得ることができるの」
「僕はそんなこと望まない。死者は現を闊歩してはいけないんだ」
彼女は柳のように俯いた。
「それが望みだと言うのなら、わたしからは何も言わない。でも忘れないで。わ
たしはお兄ちゃんの思い出の中では生きていたい」
「わかってる。僕はもう振り返らないだけ。それは過去を忘れ去ることじゃな
い」
僕は座席から立ち上がり、店外へ出る扉のドアノブに手をかけた。
空白が僕をどこからか注視している。
空白に嘲笑われる前に扉を開けた。
光に溢れたバラが咲き乱れていた。
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