Episode1

10/11
前へ
/24ページ
次へ
どうして……こうなるんだよ……  ようやく着いた頃にはナースさんたちがごった返していた。  原因が何かなのかは聞くまでもない。  彼女は肩で息をしながらも、彼女の目は一点を見つめ続ける。  その先には俺の腐れ縁だった奴がいた。 「京太……」  俺以外にも、ナースが必死に名前を呼び掛けて意識の確認をしている。  だが、目を閉じたその顔は微動しない。  顔は白くて、まるで死んでいる人みたいだった。 「京太!」  香奈が叫んだ。隣に膝立ちの形で立つと、京太の左手を両手で握る。 「京太、京太、京太ぁ!」  今日だけで京太の名前を何回聞いただろうか。  彼女は動くことのない彼を何度も何度も呼びかけていた。 「容態は!?」  今まで不勤務だったから、寝ていたのかもしれない。少し寝癖を残しながら、白衣を着た男性がこの部屋に入ってきた。  ナースとの早口でのやり取りをしながら、医師は香奈の姿に気がついたようだった。 「君、悪いけど退いてくれないか!?」  そう忠告をされているのにも関わらず、香奈はその場から動こうとしない。  俺が急いで彼女の腕を掴んで引き離していると、医師は「ありがとう」と一声かけて、  京太の心音を確かめていた。 「まずい……!」  苦い顔を更に歪めると、先生は心臓マッサージの体制に入る。  一回、二回、三回……。  何度も行って、蘇生を試みている。  しかし反応は胸を押された反動だけで、京太の息は吹き返すことは無い。 「そんな…………何で……?」  弱々しい声は震えていた。  俺は何も言わずに、香奈の肩にそっと手を添えるしか出来ない。 「…………先生」  ベッドの横にいたナースさんが俺たちの様子をチラチラと目配りした。  医師に何かを伝えようとしたのは明白だった。  やがて、医師はマッサージをやめた。  黙ったまま首を横に振る。  それが、全てを悟っていた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加