Episode1

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「よし!」  隣を歩いている香奈はにっこりと笑った。  その姿は両手に花という言葉をそのままの意味で表していた。  理由としては今日ねだり尽くして、安く買うことに成功した花が原因だろう。  花の名前は……確かバラだったかなぁ? 「違うよ、これはバラじゃなくてミセバヤ! ちゃんと覚えて!」  軽い気持ちで聞いてみたのだが、失敗だった。彼女は物凄い剣幕で怒ってきた。 「そんなに怒ることないじゃないか……」 「明らかに花を馬鹿にしているもん! どこを間違えればこれが薔薇になるのよー 」  香奈と呼んだ俺の幼馴染はムスッとした表情で近づいてくる。  最近使い始めたのだろうか、香水の甘い匂いが俺の鼻を刺激してきた。  彼女が腰まで伸ばした長髪にしているから、髪の毛が俺の手にもかかるくらいに当たる。  総合的に判断すると、正直、ドキッとした。  髪の色と同じ、綺麗な茶色の目に睨みを加えて近づいてくる顔。俺はとっさに顔を背け、指で自分の頬をかいた。 「悪い悪い。軽い冗談のつもりだったんだけど……」  実は半分以上本気で言ってしまったのだが、そんなこと口にできない。  正直赤かったから、俺はその花の名前を言っていた。 「全く……」  ようやく離れたと思うと、手に持ったミセバヤという名前の花を見つめながら、彼女は僕をおいて先行した。  彼女が向かっているのは太賀病院という、新しく出来た病院だ。  このベッドタウンとして発展していく街で、唯一と言っていいほど大きな病院である。 「だから京太も毎回迷っているんだって。本当に方向音痴なんだから」  そう言う彼女の目は楽しそうだった。
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