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「よし!」
隣を歩いている香奈はにっこりと笑った。
その姿は両手に花という言葉をそのままの意味で表していた。
理由としては今日ねだり尽くして、安く買うことに成功した花が原因だろう。
花の名前は……確かバラだったかなぁ?
「違うよ、これはバラじゃなくてミセバヤ! ちゃんと覚えて!」
軽い気持ちで聞いてみたのだが、失敗だった。彼女は物凄い剣幕で怒ってきた。
「そんなに怒ることないじゃないか……」
「明らかに花を馬鹿にしているもん! どこを間違えればこれが薔薇になるのよー 」
香奈と呼んだ俺の幼馴染はムスッとした表情で近づいてくる。
最近使い始めたのだろうか、香水の甘い匂いが俺の鼻を刺激してきた。
彼女が腰まで伸ばした長髪にしているから、髪の毛が俺の手にもかかるくらいに当たる。
総合的に判断すると、正直、ドキッとした。
髪の色と同じ、綺麗な茶色の目に睨みを加えて近づいてくる顔。俺はとっさに顔を背け、指で自分の頬をかいた。
「悪い悪い。軽い冗談のつもりだったんだけど……」
実は半分以上本気で言ってしまったのだが、そんなこと口にできない。
正直赤かったから、俺はその花の名前を言っていた。
「全く……」
ようやく離れたと思うと、手に持ったミセバヤという名前の花を見つめながら、彼女は僕をおいて先行した。
彼女が向かっているのは太賀病院という、新しく出来た病院だ。
このベッドタウンとして発展していく街で、唯一と言っていいほど大きな病院である。
「だから京太も毎回迷っているんだって。本当に方向音痴なんだから」
そう言う彼女の目は楽しそうだった。
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