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今日だって俺はいつものように断ろうとした。
学校の帰り道、別れる直前での会話。俺はすぐに帰れると思っていた。
帰ったあとの用事さえ、考えていた。
だけど……香奈はいきなり泣き出して、戸惑う俺に言ってきた。
『何で…………何でいつも断るの? 何で京太の前に出てくれないの?』
そう言って、俺の制服の袖を強く握ってきた。
『お願い……一度でいいから……お願い』
自分が行かないことで、京太と二人っきりの時間を作ることが出来る。
そう思っていた俺が愚かだった。何のためのお笹馴染みなんだと痛感した。
香奈はずっと一人で耐えてきたのだ。
誰にも不安が言えなくて、それでも明るく振舞おうと自分を押し殺していた。
そんな香奈の優しささえ、俺はこの十七年間気付くことができなかった。
『ごめん……』
俺はそう言うしか出来なかった。
「雅人が聞かないから、悪いんだよ」
眉は八の字になっていたのだが、口は笑っていた。
怒ってはいるが、嬉しさもある。
彼女の感情はきっとそんな所なのだろう。
「そりゃあ悪かったな。……んで、病院ってどっちだっけ?」
俺の質問に対し、彼女は人差し指を使って方向を示す。
流石一ヶ月ほぼ毎日通ったことだけある。その指には迷いがなかった。
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