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一年前もこんな暑い日だった。学校が終わっての放課後、俺は帰宅することに精を出す部活に所属していた。
今日もその部活動を全うするだったのに、残っている。
原因は、
『俺、彼女と付き合うことにした!』
明るく報告してきたこいつだった。
剣道部に所属している京太は俺とは比べ物にならないほど、出来た人間だ。
スポーツもできたし、成績も上位。
そして何より人懐っこい明るい性格。
そんな彼の存在はクラスの中心人物となっていた。
何でも出来て、何でも頼れる。
こいつの存在が羨ましいと思ったことが何度あったか。
そんな彼が今は嬉しそうに微笑んでいた。
『決心出来たのか、京太。告られた時はあんなにおどおどしていたのによ?』
『俺さ、あいつが笑っている姿が好きなんだ! だからずっと笑顔でいてもらいたいし、努力したいんだ!』
嬉しそうな顔が更にその輝きを見せている。いつもそうだ。こいつはこの笑顔でみんな を笑顔に変えていたのだ。
俺だって例外ではない。
でも今回ばかりは少し眩しすぎて、辛かった。
『……そうか。まぁ、幸せになれな』
そう端的に述べると、俺は鞄を持って出ていこうとした。
自分の気持ちが出る前に出て行こうとしたのだ。
俺には相応しくないし、似合わない。それなら俺が出て行くのが当然であるのだから。
『雅人はさ、香奈のこと好き?』
突然だった。ドアに手をかけたところで京太は優しい声色でそう聞いてきたのだ。
そのとき、俺自身を抑制する気持ちが失せてしまった。
『 』
消え去るような声。聞かせてはいけないと分かっていながらも、俺はか細い声で言ってしまっていた。
『……やっぱりね』
俺の言葉を聞いて、京太は笑っていた。
なぜ笑っているのかわからずに、俺は京太を見ると、いつも見せてくれる笑みを俺に向けていた。
こいつは俺の気持ちを知ってなお、俺を俺として見てくれるのだろう。このまま、ずっと。
だから……
『俺、お前の分も香奈を笑わせて見せるぜ! 絶対!』
『……信じてるから』
それが最初で最後、俺の心からの応援となった。
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