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「…ん、またか」
僕が彼女の警護役に抜擢されてからひと月余り。
ユーリシアが外出する時以外は、僕は玄関近くに用意されたの管理部屋に詰めていた。
その玄関で、たびたび不思議な現象が起きることがあった。
夜、いつの間にか、扉が少し開いているのだ。
鍵は確かに閉めた筈だから、使用人が外に出たのかもしれない。
最初はそう思っていたけれど、これが頻繁にあるのだから、何だか不気味だった。
この日も僕は鍵をかけ直そうと、扉に向かった。
「…?」
一瞬、扉の外…細道へ抜けるように、何か薄い布がひらりと視界を過ぎる。
「誰だ?」
僕は、屋敷から出て鍵を閉めると、その布が消えた路地まで忍び寄る。
返事は無かった。
けれど、今度は確かに、人の足が見えた。
腰の剣を抜き、僕はその姿を捕らえようと駆けた。
その人物は、ひらりひらりと、裏道を通り、逃げて行く。
「……っはぁ、はぁ」
僕はひたすらにその人物を追いかけた。
やがて街灯が乏しくなり、石畳が乱れる。
(そうか…この辺りは、スラム街か)
この時、僕は追いかけて、良かったのか、悪かったのか。
―それは今でも、良く解らない
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