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僕が見て見ぬふりをしている間にも、事態は更に悪化していった。
スラム街近辺で、連続殺人が起きているらしい。
そんな噂はすぐ僕の耳に入り、父親は娘の警護を任せたと、僕に言う。
やるせない気持ちだけが、僕の心に蓄積する。
僕に出来ることは、何か無いのか。
そうして僕が思い立ったのは、僕の父親の所だった。
「…スラムの殺人の捜査を、やめてほしい?」
僕の言葉に父は訝しげな顔をする。
当然と言えば当然、ある日反発していた息子が、突然頭を下げてきて、更にそんなことを言い出すのだから。
「…税金を払わないスラム民がいくら死んでも、捜査をするだけ無駄でしょう」
実のところ、腐敗しきったここの警察にそれは当然で、この捜査に余り力を入れていない。
「…金なら払うよ、いくらでも」
僕は、あれだけ嫌っていた父親と同じく身を落としたのだ。
それも、結局は無為な時間稼ぎに過ぎないと、知っていながら。
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