2. 望まれざる救世主

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其処は、国境、辺境の森の中だった。 二つの国は未だ争い続けていて、今日も、多くの血が流れている。 一人の青年が、その森を歩いていた。 黒髪に、金色の瞳の、狼のようなその青年は、雨に濡れながら、たった一人で、歩いていた。 救世主、と呼ばれるには、誰かを守ることのできない、その力。 けれど、誰にも傷つけられることの無い、その身体。 ―いつも、いつも、何も出来ずに、生き残るだけ 手にした剣から、滴り落ちる赤い血が、水溜りを赤く染めた。 そもそも青年は、争い自体、嫌いだった。 けれどそのように生まれた所為で、争い以外の場所を与えられなかった。 雨に濡らされた青年には、泣くことさえ、許されなかった。
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