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不意に、暗闇しかない筈の空間に、光が差した。
目を凝らすと、雨に濡れた、狼のような青年が立っている。
金色の瞳が、私を射抜く。
「…お前か、歌っていたのは」
青年は、そんなことを聞いてきたけれど、私には何のことか解らなかった。
ただ、私はこの、誰もいない鳥籠に現れた不可思議な存在である青年に、興味が湧いていた。
「…君は?」
辛うじて出た言葉は、けれどしっかり青年に届いたらしい。
「リオ」
初めて聞いた筈のその言葉は、けれど産まれた時から知っていたかのようで、ある筈もない郷愁に似た想いに駆られる。
「…理を繋ぐ緒、か」
私はごく自然に、産まれて初めての、微笑みを浮かべていた。
「ああ、良い名前だね」
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