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「…懐中時計?」
小さな花の装飾のされた懐中時計が、僕の手のひらに乗っていた。
「ええ、お仕事に使えるかしら?
高いものではないから、貰って」
「…ありがとう」
「じゃあ、お巡りさん。
また会えれば良いわね」
ユーリシアはそう言って、劇場へと駆け出した。
僕は、ぎゅっと懐中時計を握り締め、覚悟を決めて口を開いた。
「エリオット」
彼女は僕の言葉に、足を止めて振り向く。
「僕の名前だよ。
エリオット=クロードというんだ」
辛うじて出た言葉はそれだけで。
それでも、彼女は笑顔を見せてくれた。
「エリオット、またね!」
彼女が去って、僕は手の中の懐中時計を見る。
―優しいお巡りさんへ
《ユーリシア=L・フロレンス》
この時僕は、まだ知らなかった。
―この時計に刻まれたのが、殺人鬼の名だと言うことを
そしてその日の夜、俳優ランディオットが、殺された。
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