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目を開け再び足元を見下ろす。大小様々な光が私を誘っている。
勇気をだせ。少し勇気をだせば全ての苦しみから解放されるんだ。
そして私はゆっくりと、それでいて力強く足を踏み出した・・・・・・いや、今にも踏み出す瞬間だった。ビルの屋上に大きな声が響いた。
「まてっ!」
突然の声にびっくりして振り向くと黒いスーツを着た若い男がいた。その男は全速力で階段を駆け上がって来たらしく、ぜぇぜぇと肩で息をしていた。
何事かと思った私は、彼に喋りかけようとしたが、彼は私にそんな暇を与えなかった。
「オッサン。あんたは今さっきここから飛び降りて死んだ」
そして間髪入れずに言い放った。
「だからあんたはもう一度人生を楽しむ権利を手にしたっ!」
開きかけた私の口は何も発することはなかったが、すぐに閉じることもなかった。あまりにも唐突な彼の発言に私は唖然としていたのだ。
彼が何者なのか。そしてなにを言っているのか。この時点では何もわからなかった。
しかしいつの間に強風は止み、優しい夜風が私の頬を撫でていた。
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