幼い頃の思い出

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 その時だ。私が獣の咆哮を聞いたのは。  声のほうに目を向けてみると、そこには一匹の狼がいた。  月の光に照らされてキラキラ光る白銀の毛、それと正反対の真黒な瞳。  それに共鳴するかのように、私の姿も変わった。  村の人々から、『呪い子』と言われている姿に。 「××……」  母が私の名前を読んだ。  でも、私はそれにこたえようとせず、ただ狼のほうを見ていた。  その時再び狼が小さく鳴いた。  私は、母の腕を飛び出して狼のほうへと駆け寄った。 「××!」  母が、悲鳴じみた声で私の名前を読んだが、私は狼の首筋に顔をうずめて手触りを堪能していた。  狼は、私のほうを一瞥すると母のほうに向き直り、睨みつけながら言う。 「貴様が選んだことだ。文句はあるまい?」  母は伸ばしかけた手を止めて、立ち上がる。  そして、震えた声で頭を下げて言う。 「その子を、よろしくお願いします………っ」
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