秋月夜

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5. 恐ろしい気持ちを抑えて社に近づきます 黒い影は嬉しそうに飛び跳ねて両手を差し出しました ごわごわの手には幾つもの花輪 待っている間ずっと作っていたのでしょう 萎れたものもあります 自分は怖くて逃げ出したのに あれ…友達は自分を待っていてくれました 嬉しくて、心が痛くて 兎は大声で泣き出してしまいました 『ごめんね、ごめんね』 友達は戸惑いながら兎の頭をそっと撫でます その優しさに兎はさらにわんわんと泣きました 兎が涙を拭うとひとつの事に気付きます 友達の真っ黒な影が少し薄くなり いつもの顔が見えたのです 何故?と考えても分からず 出会うきっかけになった鏡と友達の手を引いて 澄み川辺へむかいます 夜に起こされた河童は気難しそうでしたが 泣く兎と真っ黒な友達を見ると ほとりに座らせて話を聞いてくれました 『鏡は自分を写すんだ 友達の姿は兎の悪い心の映したんだな 悪さを全部謝って鏡を大滝で清めてみたらどうだ?』 兎はこくり、とうなづくと 口をもごもごとしながら河童を見ます 『ありがとう …この前は石を崩してごめんなさい』 兎は言葉がうまく出ず恥ずかしくて仕方ありません 河童は笑顔で頭の皿をぺしりと叩いてうなづきます また少し影が薄くなりました
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