秋月夜

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7. 秋月が綺麗な夜 兎は紅葉に囲まれた大滝に向かいます 身を縮めて震えてしまうほど水は冷たいのですが 背後の友達を見てぐっとこらえます 真っ白に照らされる兎の背後に立つ友達は さながら長く伸びた黒い影のようです 『お社の鏡に触れて ごめんなさい  悪戯ばかりして ごめんなさい』 心からのお詫びをこめて鏡を磨きます 『ごめんなさい』 お願いです、大切な友達を元に戻して下さい 月の光がひと際鏡を照らします 兎が息をのんで振り返ると 友達は出会った頃の姿に優しい笑顔を浮かべています 『ありがとう ごめんなさい』 友達とすべての人にそう繰り返しながら駆け寄ります けれど その体は薄く透け触れる事が出来ません 友達は知っていました 大滝で清められる事は写し身の自分を消してしまう事を でも 自分の為に身を削り慈しんでくれる兎が愛おしくて 自分を見る度悲しんで欲しくなくて 受け入れる事にしたのです それに… 徐々に消え行く体に錯乱して泣く兎に頭上の満月を指差します そこには二匹のうさぎが仲良く寄り添っていました 兎と自分を交互に指差し もう一度満月を指差します 『…いつも一緒?』 友達は破顔して頷きます 『でも…』 悲しげに困った顔をした友達に兎は言葉を飲み込みました 大切な友達にこんな顔をして欲しくありません 『…うん』 いくら顔で笑っていても涙が溢れます 友達も鏡で映されたように涙が溢れていました 『わたし ひねくれてるから お別れは云わないんだからね!』 裏返る声で精一杯いつもを装いなが云うと 友達は笑いながら何度も頷いて 消えてしまいました
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