ビンテージ

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香織は勇人の味に陶酔しながら過ぎし日々の絶望のキスの記憶が押し寄せるのを感じた。 20年近く経過しようというのにその痛みの記憶は鮮烈だった。今では思い出しても疼くという程度だが。 当時まだ23歳にして人生が急に幕引きになってしまったように感じた。勇人がすべてだった。 勇人と一緒に生きていけないなら、勇人が私の人生から去ってしまうなら生きていたくない。 あの人の妊娠がわかって勇人から真理沙と結婚する事を告げられたあの日の絶望。 心臓が急速に石化して固まってしまうような気がした。痛くて痛くて動けなかった。 絶望と苦悩の日々… その痛みの記憶が靄がかかったようにフェードアウトしていく。 香織の心が麻痺していく。 勇人に抱かれ全身が沸騰するような強烈な快感を享受しながら喜びしか感じなくなった。 恍惚しか見えなくなった。
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