気詰まり

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「ご飯は?食べた?」 柾生はバスタオルで体を拭きながら聞いてきた。 「食べたよ。」 素っ気なく答えて着ている物を脱ぎ始めた。目に見えるはずのない卓哉の痕跡を見咎められそうで落ち着かない。 柾生は莉乃が服を脱ぐのを俯瞰するみたいに眺めていた。もう嫌というほどお互い見慣れた半裸状態。今更欲情も沸かないだろう。 「たまには一緒に入る?」 柾生が本気とも冗談ともつかない調子で言った。 「何馬鹿なこと言ってんの。先に寝て。」 つれなくあしらってバスルームの扉を閉めた。 「シチュー作っておいたんだ。良かったら食べて。」 柾生の屈託の無い声が聞こえてきた。 「ありがとう。」 莉乃は聞こえるか聞こえないか位の声で返事をした。 胸がぎゅうっと締め付けられるような気がした。ふいに涙がこみ上げてきた。
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