記憶さようなら

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いつも幸せだった日々は苦痛に変わっていった。 あの事故がなければ。 付き合って1ヶ月の彼女、紫音と初デート。 休みのなかったここ1ヶ月の間、紫音にはさみしい思いばかりさせていた。 「結斗」 駅の待合室で10時の電車から降りてきた紫音に声をかけられる。 「おはよう、何処行く?」 「ラウンドワン」 「えっ?」 「ラウンドワンって、言ったの」 紫音は眉間にしわを寄せる。 少しわがままで乙女チックな紫音。 でも俺のことをしっかりわかってくれている。 部活でメールをぶちっても、一緒に帰れなくなっても、全然怒らない。 しかも、他の女子と話していても知らんぷり。 俺がこんな体質だから。 小さい頃から、人の目を引いてしまう。 今だって、待合室の中でも外からも視線を痛いほど突き刺さる。 「わ、わかった!!ラウンドワンね」 「うん、はやく行こっ」 グイッと力強く紫音に腕を引っ張られる。 「ちょ、待って」 「結斗がどれだけ人の目を引くかわかってるでしょ」 「………ごめんなさい」 「もー」 ピタッと足を止める紫音に俺はぶつかってしまう。 「ねぇ、キスしてよ」 「へっ?」 声が裏返ってしまう。 「初めて、じゃないでしょ、キス」 「こんなところじゃ…」 「チキン」 「なっ!!」 「あははっ」 「え…」 「行こう、結斗」
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