いらっしゃいませ

4/6
前へ
/8ページ
次へ
「席へご案内します、こちらへ」 「あ、はい」 そう言いながら、男は満面の笑みで少年を案内した。 女の子は少年の後ろをゆっくりついてくる。 「どうぞ、お座りください。………真夢里様もこちらへ」 「ん……」 少年と真夢里(マユリ)と呼ばれた女の子は、男に椅子を引かれ、机を挟み向かい合う形で、お互いに座った。 正面にちょこんと座っている真夢里を見ながら、どうしてこの子まで座るのかと首をかしげた。 「ご注文が決まりましたら、お呼びください」 「え、あ……はい」 少年の気の抜けた答えに、男性はふわりと笑いまた奥へと姿を消した。 少年はメニュー表を手に取り、目をとおし始める。 何にしようかなと迷っている少年を余所に、目の前に座っている女の子は、どこから出したかわからないがふわふわの熊のぬいぐるみに顔を埋め、上目遣いに少年をジッと見ていた。 少年の容姿は、平凡の中の平凡だ。どこにでもいる、ただ一般人より肌の色が白く、華奢なだけの黒髪少年。 少年は視線を感じてふとメニュー表から目を移すと、必然的に目があった。 クリクリの大きな瞳は赤色で、長いまつげが覆っていた。まっすぐに切り揃えられた前髪と、腰よりも長い濡れ羽色したさらさらの髪は、耳にかけられ後ろへと流れている。 整った鼻梁とぷっくり唇から来る女の子の容姿は、一言で言うと、美形と呼ばれるのだろうか………まぁ、その類いのものだろう。 さっき出てきた男性も美形だった。 そんな素晴らしい容姿をした彼女から目を逸らすこともできず、長い沈黙が流れる。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加