一章

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.No Title  うららかな日差しの中、ノックの音と共に目が覚める。  木造ロッジのリビング、そこに備えられたソファに横たわっていた鋼はあくびを噛み殺しながら、扉を叩く人物に声をかける。 「ふぁい、はいってどうぞぉ」  はいるわ、といってその扉が開かれた。  短く揃えられた栗色の髪の毛、動きやすいように作られたジャケットを着込み、だぼついたニッカポッカ履いている。しかし、なにより特徴的なのが顔の横に存在する長く尖った耳。  扉から現れたのは完璧に少女であり、明らかに、鋼のよく知る人間(・・)ではなかった。さらにいえばこの世界も彼のよく知る世界とは違っていた。  そう、彼はこの世界の人間ではない。  笹塚鋼は現代日本からやってきた一般的な高校生にしてこの世界の異邦人である。  そしてこの世界に来ると同時に彼もまたヒトの枠から外れた。その結果、いま、彼の姿は長く尖った耳を持つ一介の少年となっている。 「おはよう、コウ。そこで寝て大丈夫だった?」  リビングにやってきた少女。名前はカート・イングス。この山小屋で暮らし、狩猟でもって生計を立てる、なかなかにパワフルな人間である。 「大丈夫、大丈夫。この程度じゃ風邪なんてひかないって」  寝ていたソファから起き上がり、軽く体を動かしながら笑ってみせる。 「そういう話じゃなくて。あなた昨日、山の中でぶっ倒れてたのよ? 危うく動物達に喰われる所だったのに、起きたらすぐ布団から出て、男として女に譲ってもらう訳にはいかないから、自分は床で寝る! なんて言い出すんだから。拾った人間として回復できたか心配するでしょ?」  咎めるように口を尖らせる。 「拾うって……俺は犬か猫かよ……」  そう言って鋼は困ったように頭を掻く。 「そもそも、ぶっ倒れてたって言われても、俺ここで起きる前の記憶じゃ家で寝てたはずなんだがなあ……ところでそのカッコ、いまから猟に行くのか?」  少女らしからぬごたついた服装を眺め、ついでまだ薄暗い窓の外を見遣る。 「そうよ、狩りは基本的に待ちだからね。明るくなったらすぐにでて、ケモノ達の通り道で張っとくの……まあ、それでも狩れたらラッキーって感じなんだけどね」  肩を竦めて、鋼の疑問に答えた。
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