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「でもさ、」目を輝かせるサクにチアキが反論する。 「こいつら本気にしたんだって思われたらなんか嫌じゃね?」 「確かに。」サクが相槌を打った。 だからやめだ、やめ、言いながらチアキはベッドを降りる。 すると、待って、行かないで とサクがチアキにすがりついた。 腕にしがみつく。 彼女はたまにそんな事をする。 「トイレに行くんだよ!」チアキが怒鳴る。 「じゃあ一緒に行くもん」 「すぐ戻ってくんだから離せよ」 チアキは乱暴にサクを引き剥がした。 「すぐになんか帰って来ないでしょ」 サクは読めない顔をした。 「すぐだよ、トイレにそんな時間かかるか。」チアキは扉に手をかけようとする。 「嘘。うち、チアキが行くとこ、トイレじゃないの知ってるよ。」 チアキの手と足が止まった。 「舎監室、行くんでしょ。」その足はドアの方を向いたままである。 「何で」 「だって、さっきバイクの音聴こえたもん。」 サクはニヤニヤしながら言った。 「行かねーよ!トイレだよ!」 「また嘘。顔真っ赤」 「嘘じゃない!黙れバカ」 バンッと乱暴にドアが閉められる。 ずかずかと荒々しい足音が遠ざかってゆく。 ―ほら、やっぱりね― 足音の方向は明らかにトイレではない。 そのもっと先にある舎監室だ。 「素直じゃないんだから。」そう独りごちて、サクはうふふふと笑った。 先程のバイクの音はこの女子寮の舎監長、徳島睦実のものだ。 学校では国語を教えている、静かで落ち着いた風の素朴な教師だ。一部の生徒からはふてぶてしいだとか、無愛想だとか、授業がつまらんだとか、不評もないわけではなかったが、チアキはそんな事は全く気にも留めない。 愛想がない様で、実は優しい目をした、くせっ毛で少しそばかすの目立つ、ぽっちゃりとふくよかな徳島先生。 チアキはなぜか今その彼にぞっこんなのだった。
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